大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和39年(ツ)40号 判決

上告人(控訴人・被告)

朴鐘順

代理人

寺田熊雄

被上告人(被控訴人・原告)

杉山芳郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

しかしながら、建物の共有者はその敷地全部を共同占有するものというべきであり、このことは右敷地上に建物を共有するという事実にもとづくものであつて建物の占有という事実にもとづくものではないから、建物の共有者が当該建物の全部を占有するか、その一部を占有するか、はたまた全く占有しないかによつて何等異なるところはない。所論は、建物の共有者の敷地占有の範囲が当該建物の占有の範囲と合致すべきものとするもののようであるが、その理由のないことは多言を要しない。

ところで、建物の共有者がその敷地の占有権原を有しない場合、すなわち共同して敷地不法に占有している場合、右敷地の所有者その他の物権者において右共有者全員を相手取つて物権的請求権にもとづく建物収去土地明渡の請求をなしうることはいうまでもないが、右共有者の一人のみを相手として同様の請求をなすこともまた許されると解すべきである。右の場合の如く、共同して物権を侵害する数名のものは、それぞれその侵害行為の全部に関与するものであつて、単にその一部にのみ関与するものとはいえないから、物権者に対する関係では、各自その全部につき責任を有し不可分的に右侵害行為全部を除去すべき義務を負うと解するのが相当であつて、各自が、他に加担者があり自己単独の侵害行為でないことを理由として、右義務の履行を免れうると解するのは相当でない。したがつて、被害者たる物権者は共同侵害者の中の任意の一人に対し侵害行為全部の除去を求めうるものというべきである。右の解釈は、共同不法行為者に連帯して損害賠償をなすべき義務を負担せしめた民法第七一九条の精神にそうものであり、また、これを反対に解して、共同侵害者の侵害行為を排除するためには常に共同侵害者全員を共同被告として訴を提起することを要するとした場合に、侵害を受けた物権者がその救済を訴求する上において蒙るべき困難(例えば、共同侵害者中の一部の者が判明しない場合の如き)を避けるという実際的必要の点からみても肯定せられるべきである。建物を共有してその敷地を不法に占有することにより該敷地の所有権を侵害する場合も侵害を受けた右所有権者において建物共有者の中の任意の一人を相手として右建物全部の収去並びに右土地全部の明渡を求めることは、前示不可分的な侵害除去の全部義務の履行を求めるものとして、これを許容すべきである。右の場合を必要的共同訴訟にあたるとして建物共有者全員を相手としてのみ建物収去土地明渡を求めうるとする見解には賛同しがたい。もつとも、共同侵害者である建物共有者の一人に対する訴によつて、その共有者の作為を求め得るにすぎず、他の共有者の作為まで求め得ないことは明らかであるから、他の共有者がその建物を占有している如き場合には、他の共有者をも相手として建物収去土地明渡の請求をしない限り、共同侵害行為全部の除去を求め得ないことになるが、このことは共同侵害者たる建物共有者各自が建物収去土地明渡の全部義務を負うことと矛盾するものとはいえない、また、右の場合にも、他の共有者を共同被告としなければならない要請がある訳ではないから、この場合を必要的共同訴訟にあたると解すべき理由はない。そして、かような建物共有者の一人に対する建物収去土地明渡の訴において原告勝訴の判決を得ても、該判決の効力が当然に他の共有者に及ぶとはいえないから、その執行に際し、他の共有者から自己の権利を主張して第三者異議の訴を提起し、執行阻止の挙に出ることはこれを妨げえず、或は他の共有者に対する別訴において、原告敗訴の判決を受ける可能性のあることを否定し得ないけれども、一方他の共有者において右勝訴判決の結果を肯定し、原告の権利を争わない可能性もまたあり得るのであるから、かような判決が実益のないものであり、ひいてかような訴が許されないと論ずることは当をえない。

本件訴訟は、被上告人に対し、上告人が権原なく被上告人所有の本件土地内に本件各建物を所有してその敷地を占有していると主張し右建物収去土地明渡を求めたのに対し、上告人からは本件各建物が上告人の単独所有でなく他の訴外人二名との共有である旨争うのみで右敷地の占有権原については何等主張するところのなかつたものであることは記録上明らかであるところ、仮に上告人主張のとおり右建物が上告人等三名の共有であるとしても、上告人は共有者の一人として被上告人に対し右建物収去土地明渡の全部義務を免れえないものであること前に説示したとおりであるから、原判決が所論の如く判示して被上告人の請求を認容すべきものとし、右共有の事実の有無につき審理判断しなかつたことには、審理不尽又は理由不備の違法なく、論旨は理由がない。

同第二点について。

建物の共有者がその建物の敷地全部の共同占有者であることは前論点に関し説示したとおりであり、不法に敷地を共同占有するものが共同不法行為者として連帯して損害賠償義務を負担すること、したがつて右建物共有者の各自がその敷地全部の相当賃料額を損害金として支払う義務のあることは多言を要しないところであるから、上告人において本件建物の共有者であることを主張する以上現に本件建物を占有するか否か、或は本件建物の如何なる部分を占有するかにつき判断するまでもなく、上告人が原判決判示の如き損害賠償義務を負うべきものであることは明らかである。所論の最高裁判所判例は何等原判決とてい触するところなく、論旨は理由がない。

よつて、本件上告を棄却することとし、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条にしたがい、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官松本冬樹 裁判官胡田勲 長谷川茂治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例